3500年前の読みもの。

 

よく磨かれたガラスのショーケース越しには、一枚の骨が厳かに展示されていた。

 

ラウンドがかかった三角形で、全体にゆるやかな丸みがある。牛の肩甲骨だ。牛の肩は思ったより小さいらしい。目を細めてみると、ちみつな字が刻まれているのがわかる。左右対称のスタイリッシュな文字。紀元前およそ1500年前の中国、殷の時代に栄えた亀甲獣骨文字。

 

「3500年前の読みもの」と心の小人みたいなのが、つぶやいてくる。

 

今、話題になっている「特別展・顔真卿ー王羲之を超えた名筆ー」でのできごとだ。

 

案の定、人がいっぱい。褚遂良が模した王羲之の名筆「黄絹本蘭亭序(こうけんぼんらんていじょ)」の前には人が横一列にひしめき合っているし、初来日をはたした顔真卿の「祭姪文稿(さいてつぶんこう)」の肉筆にお目にかかるまでには3、40分待ち。

 

身体がいくらあっても足りないような錚々たる名作の中、今思い出されるのは「篆書・隷書」のブースに展示されていた、この骨だった。

 

とつぜんだけど、文字を書き起こしたくなるときってどんな時だろう。

 

嬉しかったこと、哀しかったこと、おもしろかったこと、どうしても伝えなきゃいけないこと。そんなとりどりの出来事を残したくなったり、シェアしたくなったとき、巻物にしたり、電報を打ったり、便箋を取り出したり、メールをしたり、今ではSNSに書き込んだりする。そして、骨や甲羅に彫っていた人もいる。

 

時代が進んで、いくら手法が変わっても「書き起こしの感情」にはいつでもひとっ飛びにアクセスできてしまう。

 

 

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そんなわけで、上野には梅が咲き始めていました!蕾もむくむく。

 

 

by londel