すぐれた集いの証。

 

「やっぱり近すぎよね。これだけ参加者と近いと、話される先生方も恥ずかしかったんじゃないかしら」

 

講演会終了後、左隣に座っていた女性が、とつぜん私に向かってそう訊ねてきた。反射的に「そう思います」と答えると、女性は「ねえ」と言って、目元にシワを寄せて上品にはにかんだ。遠くに住んでいる仲の良い従姉妹のような、そんな親しみのこもった笑みだった。私たちはその日の講演会で、最前列の真ん中に座っていたのだ。会場は思ったより狭く、先生たちとの距離は約1.5メートル。「ちょっと恥ずかしいわよ、やっぱり」と彼女は付け加えた。

 

その後、先生からもらったサイン本をカバンにしまって会場を後にした。すると、また別の女性に声をかけられた。駅までの途中、信号を待っていた時のことだった。

 

「あの、代官山駅ってどこかご存知ですか?」

 

私も今からそこへ行くので、一緒に行きませんかと誘った。

彼女と夜道を歩き始めてしばらくしてから、先ほどの講演会の同じ参加者であることが分かった。そこから話題が、自然と感想のシェアになる。

 

「とても充実した時間だったと思います」

「わたしも」

 

結局私たちは同じ電車に乗り、渋谷駅までの距離の中でいくつかのことについて話をした。講演会に用いた童話についてとか、関連する書籍について。短い時間のちょっとした話だったけれど、別れた後も不思議と余熱のようなものが残った。

 

公演後に参加者の人たちと、ある親身さを感じる。それがすぐれた集いの証だと思っている。

 

いつもは閉ざされてしまっている人々の心のとびらが、何かの力によってわずかに開く気がする。それも、風のいたずらによって開かれたドアのように自然に。公演中はよく分からない。終わった後に気づく。臆病なわたしでさえ、人と話したくなっている。それがどれだけ珍しいことか、自分がいちばん分かっている。

 

 

*  *  *

 

先週末に参加した若松英輔さんと山本芳久さんの講演会後、参加者の方々とのこのような出会いがあり、そんなことを思ったのでした。

 

 

 

 

西荻のカフェでゲットしたオレンジのパウンドケーキと、ゾネントアのチャイティーをストレートで。柑橘系のさっぱりした甘さと、スパイシーなチャイと、春の芽吹きの予感。今日もありがとう。

 

 

by londel