最近の小話

 

 

「あの、お客さま、ちょっとだけ時間いいですか……」

 

アチい。ちょっくら休むか。そう思って、帰り道に近くのスタバでカフェモカを注文した時のことだった。レジでステンレスのトレイの上に500円玉を差し出すと、店員のお兄さんが何かを堪え兼ねたようにこう訊ねてきたのだ。いや、切実に狒覆┐討た瓠

 

わたしは彼が何を言いたがっているのか瞬時に考えてしまった。確かにスタバは、あまたあるコーヒーチェーンの中でもラフなコミュニケーションを打ち出しているイメージが強い。注文後のちょっとした間によもやま話をしてくれることもあるし、カウンターで差し出されたカップに「Thank you!」という筆記体とか、ネコちゃんのイラストを添えてくれることもある。シャイと臆病を煮詰めたような(あたしのような)人間にとっては、慣れるまでちょっと時間がかかるアーバン(?)なコミュニケーションってやつだ…(って勝手に思ってる)

 

でも、彼の顔はラフさゼロ。表情が真剣なのだ。急に息苦しくなってきた。人が言いにくそうにしている姿を見るのは正直つらい。なんだか自分が間違ったことをしたような気分になるのだ。 髪にimomushiがくっついているのかもしれない。もしかしたら、デニムのチャックが全開なのかもしれない。ああ、この説が一番有力だ。もしそうだとしたら、若いチミのような男子には、さぞ言いにくいことであろう。嗚呼、ごめんなさいー……もうなんでもいいから打ち明けてくれ…

 

と、そんな馬鹿げた妄想は次の一言で一瞬に吹っ飛ぶこととなった。

 

「この500円玉、ホントにホントに渡しちゃっていいんですか…?!!!!」

 

…?!!

 

何がなんだか分からないまま、わたしは文字通り目を丸くした。彼の鼻息は明らかに荒かった。

 

「いや、すごく貴重っスよ。平成31年度って書いてありまスよね? 平成最後のコインってことじゃないスか。ピカピカに美しいのに、もう発行されることはないって、なんかロマンあるというか、不思議じゃないスか。だから使うのもったいないっつーか、名残惜しいっつーか……つい…」


最終的にコインマニアの彼は、バーカウンターの内側でせっせとカフェモカをこしらえてくれていたバリスタの彼女にまでその話を持ちかけはじめたのだが、驚くことに可愛らしい彼女は、作業の手を止めてレジまでやってきてくれたのだ。「すごいねー! キラキラだー!」と素直に喜んでいる。


そのやりとりをあんぐりと口を開けて眺めているうちに「で、ほんとに使っちゃっていいんですね?」と彼は最終通告を言い渡した。まるでカードゲームの終盤に、最後の切り札を出すかどうか助言する人の如き緊張感を以って。

 

ど、どうぞ、いいっすよ。レジに入れちゃってください。あたし、2000円札とか、小さい頃からギザジュウ(縁がギザギザした10円玉のこと。割と貴重)とか見つけても、なんの躊躇もなく使うタイプなんで。

 

正直にそう言うと、彼はギザジュウは最後まで残しておく人であろう表情を浮かべた(どんなん)。

やがてコインはトレイから軽快な手つきでキャッチされ、ガーっという無機質な回転音とともにレジの彼方へ吸い込まれていった。カフェモカを受け取るまでの空白、含みのある口元を浮かべて、私たち3人は何度か顔を見合わせたーーー。

 

 

 

 

そんなんで、チョコチャンクスコーンの試食までもらった。(スタバでたまにゲリラ的に始まる試食。もちろん、みんなに配っていましたが)隣に座っていた自称オマケに弱いらしいおばちゃんが大喜びしているのが印象的でした。

 

編集の日々です。恒例の巣篭もり期間に突入しました。よし。貴方もおいといくださいね。

 

 

 

by Keiko Nagao